高松高等裁判所 平成8年(ネ)237号 判決
理由
一 被控訴人二郎に対する請求について
1 本件事故の発生原因及び責任原因
(一) 請求原因(一)の事実は当事者間に争いがなく、同事実と〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 控訴人は昭和五二年七月一三日生まれ、被控訴人二郎は同年一一月四日生まれで、いずれも本件事故当時一四歳であり、A中学校三年生であった。二人は同じ保育園、小学校に通った幼友達であり、中学二年生のころは、他の同級生とともにプロレスごっこをして遊んでいた。
(2) 本件事故発生当日の平成四年五月二二日、A中学校の授業は午前中で終了し、午後〇時一五分から全校生徒による掃除の時間が始まったが、控訴人の掃除担当区域は新館二階、三階の階段と廊下であり、被控訴人二郎の同区域は本館の一階と二階の間にあるトイレであった。
(3) ところが、被控訴人二郎は右掃除をさぼって、新館二階の階段近くの廊下において、同級生にプロレス技の逆エビ固めをかけて遊んでいた。そこに、掃除に行く途中の控訴人が通りかかり、同じテニスクラブの親友を助けるため、「やめちゃれや。」などと言いながら、右足で軽く二、三回被控訴人二郎の背中を蹴った。
(4) そのため、被控訴人二郎は、仕返しをするため、逃げる控訴人を追いかけた。二人は、新館屋内の階段と外の非常階段を上がったり下がったりしながら、追いかけっこをしていたが、その途中、控訴人は、一度、新館三階視聴覚教室の本件窓から二階の庇に飛び下り、そこから非常階段に渡っている。また、右追いかけっこの途中、二人は掃除の担当責任者であるB教諭に二、三回見つかり、その都度、掃除担当区域に戻るよう注意を受けているが、それにもかかわらず、被控訴人二郎と控訴人は右追いかけっこを続けた。
(5) そして、最後に、被控訴人二郎は新館三階の視聴覚教室まで追いかけていき、同教室内において、控訴人を追いかけ回した。そのため、追い詰められた控訴人は、本件窓から二階の庇に飛び下り、そこから非常階段に渡って逃げようとして、午後〇時二五分ころ、窓が開いていた本件窓に走っていき、その桟に両手を掛け左足から桟の上にひょいと上がって、片手だけで桟を軽く掴んだ状態で中腰となり、もう一方の手には掃除用の雑巾と新聞紙を持ったまま、二階の庇に飛び下りようとした。ところが、その飛び下りる瞬間、背後から走ってきた被控訴人二郎が、控訴人のベルトを掴んで捕まえようとして、右手を延ばしたが、控訴人の飛び下りはじめたのを後ろからさらに押す形となり、控訴人は勢い余って、二階の庇に接触することなく、八メートル下の地面に両足から落下した。
(6) 視聴覚教室の床面から本件窓の桟までの高さ及び二階の庇から本件窓の桟までの高さはいずれも一メートル一一センチであり、二階の庇の幅(新館校舎の壁面から庇の先までの長さ)は約八六センチメートルであって、控訴人の落下地点は新館校舎の壁から二メートル九〇センチメートル離れていた。
以上の事実が認められ、「控訴人のベルトには触れたが、控訴人を押していない。」旨の原審における被控訴人二郎の供述部分は、前掲各証拠及び原審における被控訴人二郎の他の供述部分と対比して、また、二階の庇から本件窓の桟までの高さが一メートル一一センチメートルとさほど高くないのに対し、同庇の幅は約八六センチメートルあって、さほど飛び下りるのに困難ではないうえ、控訴人は直前に一度本件窓から同庇に飛び下りた経験があって、その飛び下りる要領を掴んでいるから、いくら慌てていたとはいえ、控訴人自らの飛び下りる勢いだけで、二階の庇に触れることもなく、新館校舎の壁から二メートル九〇センチも先の地面に落下するとは考えにくいから、直ちに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
(二) そうすると、右認定事実によれば、本件事故は、控訴人の本件窓から飛び下りようとした過失行為と被控訴人二郎の控訴人を追いかけ、その背後から控訴人を捕まえようとして手を延ばし、控訴人を押してしまった過失行為とが重なって発生したと認められるから、被控訴人二郎は、民法七〇九条により、本件事故により控訴人に発生した損害を賠償すべき責任がある。
〔中略〕
三 被控訴人須崎市に対する請求について
1 国家賠償法一条に基づく請求について
〔証拠略〕によれば、従前から、A中学校の生徒で、本件窓から二階の庇に下り立ち、そこからすぐ隣の非常階段に移るという行動パターンをとる生徒がいて、そのことが、平成四年四月末から五月初めころの職員朝礼会議で報告されたこと、そこで、同中学校校長Cは、その後の全校集会で、同中学生徒全員に対し、そのような危険な行為をしないようにとの趣旨の指導・注意を与えたこと、しかしながら、その後本件事故が発生したことが認められ、原審における控訴人の供述及び〔証拠略〕中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して措信できない。
そうすると、右認定事実によれば、A中学校校長は、本件における控訴人のような行動を採らないよう全生徒に対し事故防止についての指導・注意をしていたというべきである。
また、中学生にもなれば、校舎三階の窓から二階の庇に下りるという行動がいかにも危険なものであり、学校生活の中において許されない行動であるかとういうことは、教師から注意・指導されるまでもなく、十分認識できることであるから、A中学校側には、右指導・注意をする以上に防護パイプを設置し、防護ネットを張る等の措置を採るべき作為義務はなく、また、右指導・注意をしたにもかかわらず、生徒が前記のような行動パターンをとることを予見すべき義務もなかったというべきである。
よって、控訴人の国家賠償法一条に基づく被控訴人須崎市に対する請求は理由がない。
2 国家賠償法二条に基づく請求について
国家賠償法二条にいう「営造物の設置又は管理の瑕疵」とは当該営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、右安全性を欠いているか否かについては、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情が総合考慮されて具体的個別的に判断されることになるが、およそ被害者の当該営造物の通常の用法に反した、設置管理者の通常予測できない行動によって事故が発生した場合は、右営造物につき設置又は管理の瑕疵を認めることはできないものである。
これを本件についてみるに、視聴覚教室の床面から本件窓の桟の高さは一メートル一一センチメートルであって、生徒が誤って上半身を乗り出して転落するのを防止するのに十分な高さを有していたから、その本来の用法に照らすと、本件窓には通常有すべき安全性に欠けるところはなかったというべきであり、また、本件事故は、本件窓の桟を乗り越えて二階の庇に下りるという、その通常の用法に反する控訴人の行為によって発生したものである。そして、前記認定のとおり、従前、朝日ケ丘中学校の生徒で、本件窓から二階の庇に下り立ち、そこからすぐ隣の非常階段に移るという行動パターンをとる生徒がおり、このことをA中学校教職員も知ってはいたが、これに対しては、全校集会においてこれを禁止する指導・注意が与えられていたのであるから、A中学校校舎の設置管理者である被控訴人須崎市としては、それにもかかわらず、控訴人がこのような行動をとるとは通常予測できなかったというべきである。
よって、控訴人の国家賠償法二条に基づく被控訴人須崎市に対する請求も理由がない。
3 以上によれば、控訴人の被控訴人須崎市に対する請求は、いずれも理由がない。
(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 馬渕勉 一志泰滋)